銀色ネコの憂鬱
「にしても…新人の頃から明石さんがいたんだ。」
「はい。でもミモザ立ち上げで、明石さんも香魚さんも一年後には会社辞めちゃいましたけど。」
「スミレちゃんは一緒に辞めなかったんだ?」
菫は(うなず)いた。
「そもそも新人だったので、新しい会社の立ち上げには役に立たなかったと思いますが…明石さんにはピーコック…えっと、前の会社を良くしていくのは私や他の若手営業だって言われてたので、頑張るつもりだったんですけど…」
菫の口が少し重くなった。
「前の会社の営業部は男性社会だったので…だんだんセクハラっぽいこととか言われることが増えてきて…結局その一年後に辞めちゃいました。」
「………」
「その頃、一澤さんの個展があったんですよ。」
「……」
個展というワードに、一瞬蓮司の手が止まった。
「仕事…もう営業自体辞めちゃおうかなって思ってる頃で、営業帰りにたまたま通ったギャラリーにカラフルな絵があって。大きいキャンバスにバーンッてモチーフがあるのが、なんか気持ち良かったんですよね。元気が出るっていうか。」
蓮司は黙って聞いている。
「いつかこういう空気の絵で商品作りたいな〜売りたいな〜って思って。で、文房具の営業は続けようって決めて、転職して、今に至ります。」
「じゃあ俺と仕事できるのって念願てこと?」
「正直言ったら念願です。契約までが最悪だったので言いたくないですが。」
菫がまた渋い顔になったので蓮司は笑った。
「ふーん。でもそっか…、なんかいろいろわかった。」
蓮司が妖しく目を細めた。
「え…何がわかったんですか?」
キョトンとする菫に、蓮司が見透かすように笑った。
「スミレちゃんに彼氏はいないけど、好きな男がいること、とか。」
「…え?」
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