銀色ネコの憂鬱
「で、“アユさん”の商品とどっちが好評?」
蓮司が聞いた。
「え?」
「言ったじゃん、アユさんより売れるって。」
「香魚さんは固定ファンが多いので…単純比較はできないです…」
蓮司は不機嫌そうな顔になった。
「俺の方がアユさんより売れたら、スミレちゃんの一番になれるでしょ。」
「そんなことで一番とか決めてないです…」
「じゃあどうしたら一番になれんの?」
蓮司が菫の()を見て聞いた。
「え…」
菫は顔を赤らめたが“一番”という言葉に、脳裏には明石の顔が浮かんでいた。
「…今、明石さんのこと考えた。」
(え!?なんで!?)
「図星。」
「……ひどいです…」
明石のことを話題に出されても、蓮司の前では菫はもう泣くことはなかった。
「だいたい明石さんて何歳(いくつ)だよ。」
「たしか…39歳?」
「おっさんじゃん。」
「おっさんじゃないです!!」
こんな風に明石の話ができることが信じられない。
(一番…かぁ…)

「…また来てもいいですか?」
帰り際、菫は蓮司に聞いた。
「俺に会いに?」
「スマイリーに会いに。」
「もうちょっと素直になるなら来てもいいよ。」
「………」
「まぁそれは半分冗談だけど、無理しないなら来ていいよ。俺もスミレちゃんがいた方が描けるし。」
声色が優しくなった蓮司に、菫の頬がほんのり赤くなる。
『………』
お互い無言になって、変な()ができてしまった。
「あ、えっと…今度出張に行くので、お土産買ってきますね……えっと、スマイリーに!」
「うん、スマイリーにね。楽しみにしてる。…スマイリーが。」
菫は照れ臭そうに笑ってアトリエを後にした。
(一番…いちばん…)
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