銀色ネコの憂鬱
「え…?」
「“大きいキャンバスにバーンて、カラフルなモチーフがあって元気になる”…だっけ?」
「それ…」
菫が言った言葉だった。
「無条件でスミレちゃんを笑顔にできるスマイリーと違って、俺にできることってこれくらいしかないから。」
(あ…)
蓮司が、“傷ついて”ここに来ている菫を励まそうとしているのだとわかった。
菫の目から、明石の前では堪えられていた涙が(こぼ)れた。
蓮司が優しく溜息を()いた。
「明石さんに、ちゃんと言えたんだ?」
菫は(うなず)いた。
「明石さんも見る目ないな。こんなに…泣いてくれるくらい好きでいてくれるコを振るなんて。」
「あゆさんのほうが…すてきだから…」
「言うと思った。」
蓮司は苦笑いした。
「“優しくて”、“笑顔が素敵で”、“人の中身だけ見てて”、“アユさんのことを話してるときが素敵”って…」
菫が挙げた明石の好きなところを、蓮司がなぞるように挙げた。
「全部俺の、スミレちゃんの好きなとこ。」
菫は泣いたまま蓮司の方を見た。
「だから、笑ってて欲しいよ。」
蓮司が菫の()を見て、優しく言った。
『………』
また二人とも無言になった。
「…このなみだは…一澤さんのせいです…。」
「え…」
「こんな風に優しくされると思わなかった…けど、優しいって知ってます…でも…こんな…展覧会…」
うまく言葉がまとまらない。
「…とっくに…一番なんです。来るなって言われても会いたくなっちゃうくらい…いろんな話を最初に聞いて欲しいくらい…一番なんです。スマイリーじゃなくて、一澤さんが」

菫が言い終わるか言い終わらないかというタイミングで、蓮司は菫を抱きしめた。
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