銀色ネコの憂鬱
翌 日曜日午後

———ピンポーンッ

玄関のチャイムが鳴る。
(あ、言ってた荷物かな)
「はーい」

———ガチャ…

(え…)
菫がドアを開けると、そこには30代半ばくらいと思われる女性が立っていた。服装は白いシャツにパンツとシンプルだが、髪は派手な雰囲気のロングのパーマヘアで、濃い色の口紅を塗っていて菫と比べると幾分ケバいとも思える見た目をしている。そしてカメラケースのようなものを肩からかけている。
「え?ここって一澤 蓮司のアトリエじゃなかった?」
「………そう…ですけど…」
(……誰?)
「蓮司は?」
そう言いながら、女性は菫の頭から爪先までを値踏(ねぶ)みするような目で見た。
(…“蓮司”…)
「昨日から仕事で留守にしてます。夕方には戻るって言ってましたけど…」
「あらそう。なら、中で待たせてもらえる?」
「…えっと…どちら様ですか?一澤さんの留守中に勝手に家に上げるのはちょっと…」

———ハァッ

女性は大袈裟な溜息を()いた。
海老原(えびはら) (さくら)。仕事の関係者よ。」
そう言って名刺を差し出した。
春秋文化社(しゅんじゅうぶんかしゃ) ライター、カメラマン 海老原 桜】
(…サクラ…)
出版社の名刺を差し出され、仕事の関係者と言われてしまうと、菫の判断で追い返すわけにもいかないので中に上げることになった。
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