銀色ネコの憂鬱
「知らないうちに不倫してたんだよ。最低でしょ?」
「え、でも…知ってから別れたなら…」
蓮司は首を横に振った。
「え…」
「旦那がいてもいい、俺の方を本気で好きなはずだ…って思ってた。そのうち旦那と別れて俺だけになるはずだ…って。」
(あ…)

『恋愛ってそういうもんだよ。相手に好きな人がいようが、結婚してようが、気持ちはどうしようもない。』
『スミレちゃんはいい子だね。』

以前に蓮司が言っていた言葉の本当の意味がわかった。

「でも、あの人は俺のことなんか全然好きじゃなくて。狙いは別のとこにあった。」
「……狙い?」
「個展をやったギャラリーのオーナーがあの人の旦那だったんだ。」
「え…」
「若手の、これから伸びそうなアーティストに個展をやらせて、ギャラリーのオーナー…つまり旦那にクソみたいな安値で買わせるのがあの人の目的。あの個展に出してた作品も買い叩かれそうになって」
「………」
「文句言いに言ったら、不倫してたこと訴えるって言われて。あの人はあくまで俺が言い寄ったってスタンスで…もちろん旦那とグルだったんだけど…」
「ひどい…」
「結局あの時出してた作品は全部タダで手放した。俺が売れれば売れるほど、あの時の作品は高値になるって…吐き気がするよ。」
「そんな…」
「だから個展はもうやりたくないんだ。嫌なこと思い出すから。悪いのは俺だしね。」
蓮司は悲しげに笑った。
「あの時…私は元気を貰ったのに…蓮司はそんな風に苦しんでたんだ…」
菫は蓮司をぎゅっと抱きしめた。
「なんで菫ちゃんが泣きそうになってんの…」
菫は抱きしめる腕に力を込めた。
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