銀色ネコの憂鬱
蓮司は宣言通り、それからしばらく外出しなかった。
個展を開催すると決めて会場を押さえると、招待用のDM(ハガキ)フライヤー(チラシ)を作ったり、そしてもちろん新作の絵を描いたりするのに没頭していて外出する必要が無いらしい。

(あ、またアトリエで寝てる。)
土曜に菫がアトリエを訪ねると、蓮司は私室のベッドではなくアトリエの床に寝ていた。腕の中にはスマイリーが寝ている。スマイリーも最近はキャンバスで爪を研ぐことがなくなった。
———ニャァ
菫に気づいたスマイリーが挨拶するように鳴いて菫の足元にやってきた。
「おはようスマイリー。」
菫はスマイリーを撫でて抱き上げると、スマイリーの前脚で蓮司にトントンと触れた。
「蓮司ー、風邪ひくよー」
「ん…?あ、スミレちゃん…おはよー…」
寝ぼけたような蓮司に、つい“かわいい”と思ってしまう。

「また描いたまま寝ちゃったの?」
「んーうん…そうみたい…」
長机に座っても、蓮司はまだはっきりと目が覚めていないようだ。炭酸水を飲んで目を覚まそうとしている。
「DMとフライヤー置いてくれるお店がいくつかあったよ。」
「ありがと。」
「お店の人で見に行きたいって言ってる人もいたよ。」
「ちゃんと“私の彼氏なんです”って言った?」
「…言うわけないでしょ。あくまでうちの商品のプロモーションの一貫としてお願いしてるの。」
「つれないなー。」
蓮司は口を尖らせた。
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