俺様社長は純情な田舎娘を溺愛する 〜その後のエピソード〜
果穂の手元に目を落とす。

膝の上に大事そうに抱える様に持った紙袋が目に止まる。

「えっ……、俺に?」
予想外の出来事に頭が一瞬真っ白になる。

「翔さんから婚約指輪をもらって…

何も返せてないのが心苦しくて、何かプレゼントしたかったの。
気に入ってくれると嬉しいんだけど…。」

「…ありがとう。」
戸惑いながら、両手で差し出された紙袋を受け取る。

中をそっと覗くと、一枚の薄ピンクの便箋と黒い箱が綺麗にラッピングされて入っていた。

「中、見てもいいか?」

「はい…。」
緊張の一瞬、果穂の心臓はドキドキと高鳴る。

俺は、果穂の様子を伺いながら、丁寧にリボンを解きラッピングを剥がし箱を開ける。

中には、ずっしりとしと高級ブランドの腕時計が重々しく入っていた。

「これ俺の為に、果穂が⁉︎」

いつも感情の変化が分かりにくい男だが、
見開いた目が驚きを表していた。

「あの、何がいいか迷って…村井さんに相談したの。
そしたら、翔さんが学生時代に時計を買う為に、アルバイトしてた時があったって聞いて…。」

そう、確か高校時代、あまり物欲が無い俺が唯一惹かれたのがこの時計だった。

時計はあの頃、出来る大人の象徴のような気がして、受験勉強の傍ら、コツコツバイトしていつか買おうと思っていた。

しかし大学に入り、いつしか会社を立ち上げると言う夢を持ち、時計を買う資金すらも惜しくなってしまい、結局買うのは断念した。

その時計が今、俺の手の中にある。

感動するとは、こう言う感情なのかと思うほど始めての感情を持て余しながら、

「ありがとう…。
果穂、でもなぜ俺が昔欲しかったメーカーの機種まで分かったんだ?」

「村井さんの記憶を頼りに、お店を探して…その頃にショーウィンドウに飾られてた時計を調べてもらって、3点くらい候補があったんだけど、ちょっと賭みたいな気持ちで探してやっと見つけたの。当たって良かった。」
満面の笑みで微笑む彼女を、抱き締めて幸せを噛みしめる。

出会った時よりも今が一番愛しくて愛しくてたまらない。

どこまで俺を好きにさせたら気が済むんだ…。

「手紙は恥ずかしいから、こっそり読んで下さい。」
そっと、そう呟く果穂にキスをする。

「果穂、愛してる。ずっと側にいてくれ。」
祈るように彼女に告げる。

「もちろん。翔さん、大好き。 
ずっと側にいるよ。」
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