俺様社長は純情な田舎娘を溺愛する 〜その後のエピソード〜
指輪の交換の儀式を神父の合図で取り行う。
レースの手袋を外した果穂の左手をそっと持ち薬指に指輪をはめる。
華奢な指に指輪はスッーと滑る様に入り、
一瞬緩いのではと思うくらいの滑らかさだった。
触れた果穂の指先が、氷のように冷たい事に気付く。
緊張からなのか、寒さからなのか心配になる。10月の風は幾分冷たいから、
露出度の高いドレスは寒いのかもしれない。
すぐにでも抱き締めて温めてあげたい。
次に、翔の指に果穂が指輪をはめる。
指の関節で引っ掛かり、果穂はちょっと焦っている。
可愛いなと微笑みながら、入り易いように指の力を抜いて一緒に手伝う。
指輪が所定の位置に収まり、果穂がホッとした顔をする。
この結婚指輪は婚約指輪の後、急いでデザイナーに発注したにも関わらず、特注品の為かなかなか出来上がらず、何度か催促の電話を入れる程ギリギリになった。
薬指の指輪は、果穂にとっては男避けの役割を果たす。
仕事中もずっとつけて欲しいと、切に願う。
そして、俺は、何があっても一生外すもんか、と心の中で誓った。
誓いの口付けを交わす時になった。
これは、リハーサルの際に短過ぎても長過ぎてもダメだと、アドバイスをもらっている。
果穂からは、家族が見ていて恥ずかしいから頬にして欲しいと要望があった。
これはどうするべきか悩んだ。
果穂の要望を聞き入れないと、多分後々まで響く案件だ。
結婚式の日に怒らせる事は避けたい。
かと言って、俺としては世の男共に、
牽制の意を示したいから唇にしたい。
当日の気分に任せようと言う結論に至った。
この日始めて、果穂と向かいあって目を合わす。
果穂は不安そうに俺の顔を見上げている。
澄んだ大きな瞳は何かを訴え、俺を捕らえて離さない。
大丈夫だと軽く微笑み返し頷く。
一歩ずつ果穂に近付き、軽く頬に手を当てる。
目を瞑る果穂の、額に、頬にそれぞれキスを落とす。
そして去り際、サラッと唇に唇を重ねる。
果穂はいささかビクッとして、驚き目を見開いて俺を見るが、ふふっと笑って可愛い笑顔を見せてくれた。
俺もホッとして微笑み返す。