ソファーときんぴらごぼう
通じ合う気持ち


「…あ」

展望台とでも言うのだろうか。

夕暮れで、見晴らしがとてもいい。

「いい風ですねー!」

んーっと背伸びをする。

「…今日は楽しかったです。ありがとうございます」

後ろにいる相馬さんに振り返りながらお礼を言う。

「…ん」

ポリポリと頭を掻く相馬さん。

夕暮れで顔が赤く見える。

手すりに掴まって、景色を眺めていたら。

掴まっている手すりの横に手が伸びてきて、私の手の横に相馬さんの手。

後ろに感じるぬくもり。

ハグされてないけど、バックハグ状態。

ひー!と脳内が沸く。

「俺も今日楽しかった。…それにね」

少し言い淀む相馬さん。

「…遠慮してたら駄目かなって。

俺、お袋もう亡くなってて。
お袋料理上手でさ。
一時期コンビニとかで済ませて作りたくなくて。実家に住んでなかったのに、なんか思い出しちゃってたのかな。
その時に、早川の家でみんなで飲もうってなって。
たしかにその近辺で受けた健康診断で引っかかったといえばそうなんだけど。
そこまで引っかかったわけじゃなかったんだよね。
その時にでてきたきんぴらごぼうが美味しくて。
すごく美味しく感じたんだよね。
早川が作ったのかと思ったら、前の日に泊まった子が作ったって。

写真でこの子だよって佐倉さん…奈緒ちゃんを見せられた時に…なんだろう…なんとも言えない気持ちになった。

それで早川が紹介しようとしてくれてて、その時に奈緒ちゃんが火事にあったっていうから。

これは俺のうちに呼ぶしかないって思ったんだよね」

私の顔は真っ赤だし、涙目になっている。

「料理は美味しいし、気を使ってくれるし、マッサージも上手だし。
もう可愛すぎて無理。俺がしんどい。
もう早く俺のものになって…。
他のやつになんかやれない」

ぽすんと私の肩に頭を乗せながら言う。

嬉しすぎて涙は出てくるし。声を出そうとしても震えるし。

もう気持ちが溢れてどうしようもない。

声を出す前に、振り返って相馬さんにギュッと抱きついた。

うおっ、と少しびっくりしたあと、抱きしめ返してくれた。

忘れていた。

抱きしめ返してくれる心地よさ。

一方通行じゃないこと。

気持ちが通じ合ってお互いがお互いを支えあえること。

「…好き」

涙でいっぱいいっぱいだったけど、これだけは言いたくて。

「…俺も好き。むしろ愛してる」

好きじゃ足りんと相馬さん。

人は少ないけど、多少はいる。

はっ、と我に返って、抱きしめていた腕を離そうとしたら。

「早く帰ろ」

そのまま、ひょいと私を抱きかかえる形で車に向かっていった。


< 17 / 19 >

この作品をシェア

pagetop