粉雪舞う白い世界で
熊手とタコ焼きといちご飴
秋ももうすぐ終わりそうな11月。
「リリー」がある靖国通り沿いには、賑やかな屋台が並んでいた。
花園神社で毎年恒例である「酉の市」が行われるからだった。
花園神社は江戸時代から「新宿の守り神」として地元の人から愛されている神社だ。
その日は新宿の人出が多いから店は混みそうに思えるけれど、皆お祭りへ流れてしまうので、逆に店の客は少ない。
私は仕事が終わり次第、凌と待ち合わせて「酉の市」のお祭りへ行く約束をしていた。
「あーあ。暇だねえ。」
窓の外で屋台に群がり賑わう人の波を眺めながら、古田さんがそうぼやいた。
「伊織ちゃん。仕事終わったら、屋台で何か食べに行かない?」
古田さんからの誘いに、私はしどろもどろで答えた。
「すみません。今日はちょっと約束がありまして・・・。」
「えーなになに。彼氏とデート?」
「いや・・・そういうんじゃないんですけど。」
「もしかして影山さん?!」
嘘を付くのが下手な私は、自分の顔が赤くなるのを感じながら、ためらいがちに頷いた。
「やっぱりね~。伊織ちゃんと影山さん、すごくいい雰囲気だもん。絶対につき合うと思ってた。」
そう言って笑みを浮かべる古田さんに、私はあわてて両手を振った。
「違います!そんなんじゃないんです!私とりょ・・・影山さんは、友達っていうか・・・」
「なんで~。つき合っちゃえばいいじゃん。影山さんのこと好きじゃないの?」
「・・・・・・。」
私はなんて言っていいかわからず、押し黙ってしまった。
「なにか事情がありそうだね。」
「・・・はい。」
「まあ、私が口出しすることじゃないけど、伊織ちゃん、けっこう何でも自分一人で思い詰めちゃうとこあるからさ。たまには自分の気持ちに素直になりなよ?」
古田さんはそう言って私の肩を軽く叩くと、仕事に戻っていった。
私は小さくため息をつくと、古田さんの後を追った。
「ごめん!遅くなっちゃった。」
待ち合わせ場所の新宿三丁目の駅で、凌はスマホをいじりながら私を待っていた。
私は店の片づけに時間がかかってしまい、15分も遅れてしまった。
「大丈夫だよ。行こうか。」
「うん!」
いつもはジーパンにトレーナーという色気のない服を着ている私だけれど、今日はお洒落をして、新品のチェックのワンピースを着てみた。
でも、無反応な凌にちょっとがっかりした。
「なんか食おっか。」
「そうだね。私、お腹空いちゃった。」
「俺も。」
人いきれの中、私と凌は手を繋ぎ、はぐれないように歩いた。
私は串に刺さった綺麗な赤色のいちご飴を買った。
いちごに甘い飴がコーティングされていて、シャリシャリと口の中で音がした。
凌は大きなタコ焼きが6つ入ったパックを買って、口の中がやけどする!と言いながら、爪楊枝で食べていた。
「伊織も食べな。ほら、あーん。」
「恥ずかしいよ。」
「誰も見ちゃいないって。ほら、早く、口開けて。」
私は凌にせっつかれて、口を大きく開けた。
口の中に大きなタコ焼きが押し込まれた。
「熱っ!!」
「だろ?」
中に入っていたタコが思ったより大きくて、かみきれなくて、でもものすごく美味しかった。
「酉の市と言ったら、やっぱ熊手を買わなきゃな。」
「熊手?」
「そう。商売繁盛の縁起物なんだ。熊手って元々落ち葉をかき集める道具でね。落ち葉だけでなく金もかき集めたいっていう商売人の願いが込められた代物なのさ。」
「ふーん。」
「家内安全にもいいんだって。」
凌の言う通り熊手を売っている屋台があちこちで見受けられた。
福の神や米俵、赤い鯛、小判など縁起の良い小物がカラフルに飾られた熊手が、沢山売られている。
凌はその中のひとつを手に取ると、屋台の店主に買いたい旨を告げた。
店主は大きな声で「まいどあり~」と叫ぶと、凌にその熊手を手渡した。
少し小さめの可愛い熊手だった。
私と凌はゆっくりと屋台をひやかしながら歩いた。
ざわざわとした人の声と眩しい光の中で、空には星達が輝いていた。
「あ、言い忘れた。」
凌が突然私の服を指さした。
「今日、可愛いの着てるね。」
「もう。気づくの遅いよ~。」
私はそう文句を言いながらも、口元がにやけるのを抑えきれなかった。
「ねえ。凌。」
「ん?」
「私、いまとっても幸せ。」
「うん。」
「このまま時が止まっちゃえばいいのに。」
「それは困るな。」
「え?」
「俺達、もっと幸せにならなきゃ。」
「・・・・・・。」
「伊織。家に帰ったら大切な話がある。聞いてくれる?」
いつになく真面目な顔で、凌は私の手をぎゅっと握りしめた。
「リリー」がある靖国通り沿いには、賑やかな屋台が並んでいた。
花園神社で毎年恒例である「酉の市」が行われるからだった。
花園神社は江戸時代から「新宿の守り神」として地元の人から愛されている神社だ。
その日は新宿の人出が多いから店は混みそうに思えるけれど、皆お祭りへ流れてしまうので、逆に店の客は少ない。
私は仕事が終わり次第、凌と待ち合わせて「酉の市」のお祭りへ行く約束をしていた。
「あーあ。暇だねえ。」
窓の外で屋台に群がり賑わう人の波を眺めながら、古田さんがそうぼやいた。
「伊織ちゃん。仕事終わったら、屋台で何か食べに行かない?」
古田さんからの誘いに、私はしどろもどろで答えた。
「すみません。今日はちょっと約束がありまして・・・。」
「えーなになに。彼氏とデート?」
「いや・・・そういうんじゃないんですけど。」
「もしかして影山さん?!」
嘘を付くのが下手な私は、自分の顔が赤くなるのを感じながら、ためらいがちに頷いた。
「やっぱりね~。伊織ちゃんと影山さん、すごくいい雰囲気だもん。絶対につき合うと思ってた。」
そう言って笑みを浮かべる古田さんに、私はあわてて両手を振った。
「違います!そんなんじゃないんです!私とりょ・・・影山さんは、友達っていうか・・・」
「なんで~。つき合っちゃえばいいじゃん。影山さんのこと好きじゃないの?」
「・・・・・・。」
私はなんて言っていいかわからず、押し黙ってしまった。
「なにか事情がありそうだね。」
「・・・はい。」
「まあ、私が口出しすることじゃないけど、伊織ちゃん、けっこう何でも自分一人で思い詰めちゃうとこあるからさ。たまには自分の気持ちに素直になりなよ?」
古田さんはそう言って私の肩を軽く叩くと、仕事に戻っていった。
私は小さくため息をつくと、古田さんの後を追った。
「ごめん!遅くなっちゃった。」
待ち合わせ場所の新宿三丁目の駅で、凌はスマホをいじりながら私を待っていた。
私は店の片づけに時間がかかってしまい、15分も遅れてしまった。
「大丈夫だよ。行こうか。」
「うん!」
いつもはジーパンにトレーナーという色気のない服を着ている私だけれど、今日はお洒落をして、新品のチェックのワンピースを着てみた。
でも、無反応な凌にちょっとがっかりした。
「なんか食おっか。」
「そうだね。私、お腹空いちゃった。」
「俺も。」
人いきれの中、私と凌は手を繋ぎ、はぐれないように歩いた。
私は串に刺さった綺麗な赤色のいちご飴を買った。
いちごに甘い飴がコーティングされていて、シャリシャリと口の中で音がした。
凌は大きなタコ焼きが6つ入ったパックを買って、口の中がやけどする!と言いながら、爪楊枝で食べていた。
「伊織も食べな。ほら、あーん。」
「恥ずかしいよ。」
「誰も見ちゃいないって。ほら、早く、口開けて。」
私は凌にせっつかれて、口を大きく開けた。
口の中に大きなタコ焼きが押し込まれた。
「熱っ!!」
「だろ?」
中に入っていたタコが思ったより大きくて、かみきれなくて、でもものすごく美味しかった。
「酉の市と言ったら、やっぱ熊手を買わなきゃな。」
「熊手?」
「そう。商売繁盛の縁起物なんだ。熊手って元々落ち葉をかき集める道具でね。落ち葉だけでなく金もかき集めたいっていう商売人の願いが込められた代物なのさ。」
「ふーん。」
「家内安全にもいいんだって。」
凌の言う通り熊手を売っている屋台があちこちで見受けられた。
福の神や米俵、赤い鯛、小判など縁起の良い小物がカラフルに飾られた熊手が、沢山売られている。
凌はその中のひとつを手に取ると、屋台の店主に買いたい旨を告げた。
店主は大きな声で「まいどあり~」と叫ぶと、凌にその熊手を手渡した。
少し小さめの可愛い熊手だった。
私と凌はゆっくりと屋台をひやかしながら歩いた。
ざわざわとした人の声と眩しい光の中で、空には星達が輝いていた。
「あ、言い忘れた。」
凌が突然私の服を指さした。
「今日、可愛いの着てるね。」
「もう。気づくの遅いよ~。」
私はそう文句を言いながらも、口元がにやけるのを抑えきれなかった。
「ねえ。凌。」
「ん?」
「私、いまとっても幸せ。」
「うん。」
「このまま時が止まっちゃえばいいのに。」
「それは困るな。」
「え?」
「俺達、もっと幸せにならなきゃ。」
「・・・・・・。」
「伊織。家に帰ったら大切な話がある。聞いてくれる?」
いつになく真面目な顔で、凌は私の手をぎゅっと握りしめた。