病める時も、健やかなる時も、君と
そして三ヶ月前、長野県へ旅行に行った際、国営アルプスあづみの公園で夏樹からプロポーズをされた。

「絵梨花さん、僕と結婚してくれませんか?」

「……はい!」

真剣で真っ直ぐなその言葉と目に、絵梨花の心は幸せで満たされていた。薬指に嵌めてもらった指輪を見るたびに、ニヤけてしまうほどだった。

乳がんが再発し、医師から勧められて受けた遺伝子検査の結果を知る今日までは……。



涙を拭いながら、絵梨花はキャリーケースに服や化粧品などの荷物を入れていく。夏樹が仕事から帰って来るまでにこの部屋を出なくてはならない。

食器棚を見れば、旅行先で買ったお揃いのマグカップや食器がある。本棚を見れば、結婚式小さなものでもいいから挙げたいと買って二人で読んでいた結婚情報雑誌がある。絵梨花の目の前には、二人で選んで買ったソファやスツールがあり、二人の思い出があちこちに詰まっている。

「……ごめんなさい、夏樹さん」
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