病める時も、健やかなる時も、君と
これからすることは、夏樹にとっては裏切りのようなものだ。だが、この方法でしか彼を守ることができない。彼を幸せにすることができない。そう本気で絵梨花は考え、行動している。

今朝も一緒に朝ご飯を食べたテーブルの上に、銀行から下ろしてきた三百万円の入った封筒を置く。そして、真っ白なメモ用紙に「ごめんなさい」と震える手で何とか書いた。

「ごめんなさい、ごめんなさい、ずっと愛してます。だから、こうするしかないの……!」

夏樹と出会った時のこと、この家で暮らし始めた時のこと、がんを発症してしまった時のこと、笑ったこと、泣いたこと、喧嘩をした時のこと、仲直りした時のこと、様々な思い出が溢れ出してくる。悲しい思い出さえ、夏樹と過ごした時間は鮮やかに色付いて幸せに思えてしまう。

夏樹のことを考えながら、ゆっくりと絵梨花は指輪を外す。頰を涙が止めどなく伝い、目の前はぼやけていた。嫌だ、外したくない、そう心のどこかで叫ぶ自分を必死に抑え、時間をかけて指輪を外す。それだけで何故か息が上がっていた。
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