病める時も、健やかなる時も、君と
指輪をメモ帳の近くに置き、絵梨花はキャリーケースを引いて廊下を歩いていく。これでいい、これでいいんだと自分に言い聞かせながら。

「夏樹さんは素敵な人だから、きっとまた素敵な人と巡り会えるよね」

そう呟きながらパンプスを履き、何度も「ただいま」と「おかえり」を言い合った場所の扉を閉める。鍵をポストに入れた後、絵梨花は乱暴に目元を擦りながら歩き出した。



絵梨花の一方的な婚約破棄から一年が経った。季節は夏。夏樹と出会った運命の季節だ。

絵梨花は仕事を辞めて地元を離れ、今は隣の県の雑貨屋で働いている。店長も他のスタッフもフレンドリーで、いい人たちばかりだ。最初は仕事も新しい生活も慣れなかったが、ようやく落ち着いてきた。

「今度、彼氏と夏祭り行ってくるんです!浴衣、新しく買ったんですよ〜」

休憩室に絵梨花が入ると、高校生のアルバイトの女の子が同じ高校生アルバイトの先輩に話しかけているのが偶然耳に入った。
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