契約夫婦なのに、スパダリ御曹司は至極の愛を注ぎ続ける
『ああ。今朝のニュースの話か。俺も見たよ。片想いしていた女性が、相手の男性を自分のものにするために拉致しようとした事件な。たしかに怖いと思った。歪になった恋愛感情は自分でも制御するのが難しくなるんだろうな。こじらせると怖いよな』
「……だよね」
勘違いした雄二さんが『じゃあ、またな』と言い電話を切る。
〝通話終了〟という文字が出ている画面をなんとなく眺めていて、不意に気配を感じ振り返ると、ソファの後ろに悠介の姿があった。いつの間にか帰ってきていたらしい。
「おかえりなさい。お疲れ様」
立ったまま私を見下ろす悠介は、ネクタイを緩めながら「ああ」と小さく返事をした。
「今の電話、雄二さんか?」
「うん。最近、連絡してなかったから近況報告してた。雄二さん、本当にずっと私のこと気にかけてくれてたし、母親との関係ももう問題ないから安心していいよって話した」
「……ふぅん」
短く返事をした悠介の声に不満が混じっていると気付き、慌てて続ける。
「あ、でも、まだ用心しておいた方がいいって悠介が言ってるって話はちゃんとしたよ。だから、きちんと落ち着いたらお店に顔出すねって」
せっかく悠介が色々気を付けてくれているのに、当人の私が呑気に〝もう大丈夫〟と笑っていたらそりゃあ腹が立つだろうと思いフォローしたのに、悠介の顔から不機嫌さは消えなかった。
となると、理由は別にあるということだ。
仕事だとしたら関係ない私が気にしたところでうっとうしいだけかもしれないけれど、間接的には私をバイト先まで迎えにきてくれたり、夕飯を一緒に食べてくれたりしたせいで時間をとられた結果の可能性もある。
というか……この関係って、本当に悠介のためになっているのだろうか。
悠介が私を弁護してくれたり心配して送り迎えしてくれたり、部屋を用意してくれているのに対して、私は夏美さんと会っただけで、他には何も悠介のプラスになれていない。