契約夫婦なのに、スパダリ御曹司は至極の愛を注ぎ続ける


「……悪い。ただ、期間短縮を言い出した理由が知りたかっただけで、柚希を責めるつもりはないし、怒ったわけでもない。でも、言い方がキツかったな」

背もたれに体を預け天井を仰いだ悠介が、こちらに手を伸ばす。
そして私の手を握るとツラそうに顔をしかめた。

「冷たくなってる」

温かい手で私の手を包む悠介に、ホッとして緊張が解れるのを感じた。
私の指先は悠介の指摘通りたしかに冷たくなっている。

「うん。なんでだか急に」
「おまえは誰かに怒鳴られたり怒られたりして自分の存在を否定されたと思うと血の気が引いて呼吸もおかしくなる。昔からそうだった」
「え……そうなの?」

自分でも意識してこなかっただけに驚くと、悠介は天井を仰いだまま、そして私の手を握ったまま、続けた。

「気付いてなさそうだったから、わざわざ意識させる必要もないと思って言わなかった。でも、バイトをしていた頃からそうだったのはたしかだ。クレーマーに怒鳴られたあとは青い顔をしていたし、酔っ払った客に大声を出されたときも、息苦しそうにしてた。その頃は単純に男の大声が苦手なんだと思ってたが……昨日、おまえの母親の態度を見て理解した」
「トラウマ……ってこと?」

たしかに、親という存在から愛されなかったショックは私の中にある。それは、昨日母親と対峙したときに私自身初めて気付いたけれど……それくらいの嫌な思い出は誰にでもある。それに不調を呼び起こすほどのものじゃない。

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