契約夫婦なのに、スパダリ御曹司は至極の愛を注ぎ続ける


「でも、だとしても、そんな大げさなものじゃないよ。今まで自分でだって気付かなかったくらいだし」

言われてみればたしかに、思い当たる節はたくさんあった。
蘭の元彼襲撃事件のときも、怒鳴られたあと、貧血みたいになって立っていられなくなったのも、思い起こしてみればそれが理由だったのかもしれない。

だけど、意識を失うだとかそこまでひどいものじゃないし問題ないと笑った私に、悠介がゆっくりと視線だけ向ける。

「そこだけは、柚希が鈍くてよかったと思ってる」

わずかにからかうニュアンスで言った悠介は、ツラそうに微笑みを崩して続ける。

「おまえにとってはそうだとしても、俺にとってはそうじゃないんだよ。理由を知って、余計に今後柚希にそんな思いはさせたくないと思ったのに……今、俺がさせた」

握られたままの指先に力がこもる。
その力強さから悠介の後悔の深さが伝わってくるみたいで、思わず握り返していた。
ソファの上で正座をし、悠介と向き合うようにして「違う!」と大きな声で告げる。

「悠介のせいなんてこと、ひとつもない。もし、今、指先が冷たくなっちゃってたことを言ってるなら、そんなのただの冷え性なだけだよ。それに、悠介の手があったかいからもう治ったし。私が悠介に感謝することはたくさんあっても、謝ってもらわなくちゃならないことなんて、本当に本当に、ほんっとうに、ひとつもない」


< 134 / 171 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop