契約夫婦なのに、スパダリ御曹司は至極の愛を注ぎ続ける
◇「三年前、柚希が突然疾走した理由」─SIDE 悠介─


幼い頃に両親を亡くした俺は、姉と祖父の下で育てられた。

現役で会社を経営している祖父は多忙で家を空けることが多かったが、住み込みのハウスキーパーの女性も姉も、競争するように俺の世話を焼き、それはうっとうしいほどだったため寂しさはあまり感じた覚えがない。

『悠介は放っておくと非行少年になりそうな雰囲気があったし、男の子って気難しいってよく聞くからコミュニケーションが大事だと思ったの』

最近になって姉はそんなことを言っていた。構い倒されたのは多少は俺のためも含まれていたにしても、基本的には勝手な姉の性格が原因だろう。

そのおかげあってか、道を踏み外す気も起きないまま高校三年に上がった頃、祖父から新しく飲食店を作るという話を聞いた。
これまでのようなコース料理を扱う店ではなく、リーズナブルで学生でも気軽に立ち寄れる店を目指すという。

そこで料理長として紹介されたのが、雄二さんだった。

俺が十八歳、雄二さんが二十六歳の頃の話だ。

『ずっと旅館で働いていたところを忠さんに拾ってもらったんだ。子どもを笑顔にできるような料理が作りたいって話したら、忠さんが共感してくださって実現した』

祖父を〝忠さん〟と名前で呼ぶ時点で、相当親しい間柄なのだろうと予想できた。
当時、すでに祖父から許可をもらい弁護士を目指していた俺が口を挟むべきではないと考えたから言わなかったが、正直この頃にはまだ旅館で顔を合わせる程度の間柄の人間に料理長なんて任せて大丈夫なのかと疑問を抱いていた。

有沢グループは世界的にも有名な企業だ。魂胆や悪意を持ってすり寄ってくる人間も吐き捨てるほどいるし、それは年齢が上がるにつれ身をもって感じていたため、急に出てきた雄二さんに不信感があった。


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