契約夫婦なのに、スパダリ御曹司は至極の愛を注ぎ続ける
『ねぇ、私、手品部に入ってるんだけどね、今日新しいマジック習ったの。見たい?』
拍子抜けしたのは、柚希の飾らない性格と、思春期の女子とは思えないほど恋愛色をまったく感じさせない態度にだった。
いつでも元気で威勢がよく、そしてよく笑う。魂胆なんて言葉すら知らないような、ほの暗い感情なんて一度も持ったことのないような、カラカラとした眩しい夏の太陽みたいだと思った。
当時の俺は、異性からのアプローチも増え正直うんざりしていたところだったため、そういった匂いをまったく醸し出さない柚希とは会話していても気が楽だった。
雄二さんを慕っているのは俺の目から見ても明らかだったので、俺の方が親しいとわざとマウントをとり、よく柚希をからかったりもしていた。
ただ、いつだったか『その髪色、両親どっちからの遺伝だ?』と何の気なしに聞いた俺に、柚希は『えーどうだろ』と曖昧に笑っていて、あのときのことは未だに胸の底にあり後悔と化しくすぶり続けている。
知らなかったとはいえ、柚希がどんな思いでいたのかと思うと悔やみきれない。
『こんな難しい勉強してるの? 有沢って、すごいんだね』
俺の持っていた判例六法を見た柚希が感心して輝かせた目を向けてきたときには、あまりに直球すぎてどう返せばいいのかわからず言葉に詰まった。
『申し訳ありません。他のお客様の迷惑になりますので』
店内で女子高生がしつこく声をかけてきたときには、柚希が外まで連れて行き、追い払っていた。
店のドア越しにも、明らかに罵倒されたのがわかったのに、戻ってきた柚希は嫌な顔ひとつせず笑顔を見せた。