契約夫婦なのに、スパダリ御曹司は至極の愛を注ぎ続ける
『頼んでないし、俺が直接断った方が早かっただろ。おまえが悪者になる必要はない』
『でも、有沢って容赦なく断るからあの子たちのダメージが大きいし』
柚希は苦笑いを浮かべて『それに』と続けた。
『有沢が断ったら角が立つでしょ。あの子たちがどこまで知っているかはわからないけど、有沢は立場もあるわけだし、変なことで恨みとか買っても嫌だしさ。その点私なら〝あの店員むかつく〟くらいで済むから。困ったときくらい都合よく使ってくれていいよ』
そう笑ったあと、柚希はハッとした顔をして恐る恐る俺に聞いた。
『もしかして、本当に余計なお世話だった? あの子たちの誰かが好みで、これから誘うつもりだったりした?』
『まさか。今のところはこれで手一杯だ』
判例六法を指でトントンと叩くと、柚希はホッとしたような顔をして笑っていた。
『よかった。本当に頑張ってるもんね。有沢がいつもそれ読んでるから、本屋さんで法律関係の本見かけると私も有沢が頭に浮かぶようになった。それだけ毎日一生法律の本と向き合ってる有沢が弁護してくれたら、依頼人も安心して任せられると思う』
あの頃の俺は、多少迷いが出ていた頃だった。
好きにしていいと言われ弁護士の道を選んだが、祖父が老体に鞭を打って仕事に行く背中を見ればどうしてもこれでよかったのかと自分自身に問いかけたくなる。
祖父本人は『年寄扱いするな。体だってどこも壊していない。下手したら悠介より元気だ』と笑うし、俺の目から見ても年齢の割には相当若々しく映ってはいるが、だからといって祖父ひとりに有沢グループの重責を背負い続けさせるのは親不孝になるかもしれない。
そろそろ祖父の肩を責任から解放させてやるべきなんじゃないだろうか。
そんな迷いを抱いていた頃だったため、柚希の素直な誉め言葉や明るい笑顔に救われていた。