契約夫婦なのに、スパダリ御曹司は至極の愛を注ぎ続ける


『いつも笑ってるけど、昔からそんな感じか? 落ち込むことってあるのか?』

いつだったか、バイト帰り車で送りがてら聞いたことがある。
素直な疑問だったのだが、助手席に座った柚希は少し考えたような間を空けたあと、困り顔で笑った。

『んー……立ち直りは早い方だよ。でも、正直に言うと、もともとはうじうじいつまでも悩む性格だと思う』

その答えはあまりに普段目にしている柚希とは嚙み合わず、思わず『は?』と返した俺に、彼女は苦笑いを浮かべた。

『なんていうか、周りの人が優しくしてくれたり励ましたりしてくれると、すぐ元気にならなくちゃって思うの。そうしないと、嫌われて、もう誰も優しくしてくれなくなるんじゃないかって、怖くて』

それを聞いても、まだなにも知らなかった俺は納得がいかなかった。そんな俺に『今の話、内緒ね』と柚希はやはり明るい笑顔で告げた。

すべてを知った今なら、あのとき柚希が言った言葉の意味がわかる。
雄二さんや旅館のスタッフが気にかけてくれなくなるのが怖くて、心配されるとすぐに笑顔を作るようになったのだろう。

本当はどんなに不安で心細くても、それでもせめて雄二さんたちには嫌われないようにと……体に染みついてクセになるほど必死に元気に笑おうとしたのだろう。

物心ついた頃から、きっとずっと、今も。

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