契約夫婦なのに、スパダリ御曹司は至極の愛を注ぎ続ける
母親どころか、血の繋がりのある父親ですら可愛がらなかったのが理解できないくらい、柚希は整った顔立ちをしているし愛嬌だってある。
しっかりした格好をさせれば、可愛らしさも凛とした雰囲気も際立つし、母親の狙いとしては悪くないと思うものの、柚希に対するあの態度を見てしまえば決して賛成はできない。
「三年前に柚希が逃亡したことによって諦めていた画策を、一年前に出た買収話をきっかけに本腰を入れようとしたんだろう。まったく、柚希の気持ちをどこまでもないがしろにしていて腹が立つよ」
「そうですね」
絞り出すような声で言った雄二さんにひとつうなずく。
話しているうちに、あの母親への怒りに火がついている自分に気付き、大きく息を吸って落ち着かせる。
今日は終始冷静に話をするためにここに来たのだ。
店は相変わらず閑散としていて、雄二さんが来てからは来客がない。ぽつぽついる他の客も静かにアルコールを楽しんでいるようだった。
マスターがグラスを磨いているのを眺めながら、ゆっくりと口を開いた。
「三年前、柚希が突然いなくなった理由を聞いたとき、雄二さんは知らないって言いましたよね」
柚希がいなくなり、連絡も取れなくなったとき、まず最初に雄二さんに確認をした。
答えは『いや、なにも聞いていない』というものだったのは、今でも覚えている。
視線を移すと、雄二さんは俺を真っすぐに見てうなずいた。