契約夫婦なのに、スパダリ御曹司は至極の愛を注ぎ続ける
なんの変哲もない駅前のこげ茶色のビル。外階段を上った先にあるのは、結婚式をイメージさせる、静粛さと華やかさを兼ね備えたデザインの立て看板で、書かれている文字は〝ブライダルサロン〟。
誰がどう見てもそこが結婚相談所であることは疑いようがない、とてもわかりやすい立て看板だ。
そして、私の足はそこに続く階段を一段上っているため、私がブライダルサロンに行こうとしていることも、誰から見ても明らかだった。
恥ずかしさや後ろめたさはないにしても、一応、なにかしら事情を言った方がいいのだろうか……と考えたのは、看板を見上げた有沢の横顔に驚きが広がっていったからだ。
〝本気か?〟と端正な顔が聞いていた。
有沢が持っている私の印象や、二十四歳という年齢が、結婚相談所とは繋がりにくかったのかもしれない。
「あー……その、ちょっとした事情から結婚を急ぐ必要性に駆られて……それで」
適当な言い訳で誤魔化そうとヘラッと笑う。そんな私に視線を戻した有沢は、私の腕をつかんだままの手に力を込める。
そして、今度は苛立ったような顔で「おまえ……本当になにしてるんだよ」と、先ほどとほぼ同じ問いを口にしたのだった。