契約夫婦なのに、スパダリ御曹司は至極の愛を注ぎ続ける
「憧れてたけど、ミーハーではないと思う。キャーキャー騒いでたわけでもないし」
「騒がなくても、雄二さんといるときのおまえは空気がうるさかった。キラキラした目で雄二さんを見て、なんでもないことですぐ笑ってただろ。俺と……他の人間といるときとは雲泥の差があった」
「でも、雄二さんは私が小さい頃から面倒見てくれてたから、やっぱり私にとっては他の人とは違うし特別だから仕方なくない? 親代わりとまではいかなくても、親族に近い感覚っていうか、お兄ちゃんみたいに思ってるから」
母親が追い出すまでは、雄二さんは〝白川楼〟の調理スタッフだったし、毎日顔を合わせていたのだ。
そんな雄二さんと、バイト先でまた会えるようになったことに多少はしゃいでいたのは否めないにしても、有沢にそこまで迷惑をかけたわけでもないと思うのだけれど……。
バイト先に〝speme〟を選んだのは、たしかに雄二さんがそこで働いていて誘われたからなので、動機が不純だったのは認める。
でも、だからといっていい加減に仕事をしていたつもりはない。
なんとなく不貞腐れて見える横顔を眺めながら口を尖らせた。
「それに、雄二さんを慕ってたのは有沢だって同じじゃない」
雄二さんは誰からも慕われる、いわゆるお兄さん気質だ。なにも慕っていたのは私だけでなく、特に有沢はバイトをしているわけでもないのに店に雄二さんに会いに来ていたほど。
だからこそ雄二さん目当てでバイトに入った私が目障りだったのか、ことあるごとに突っかかられ、それがきっかけで友達のように話すようになったのだけれど。