契約夫婦なのに、スパダリ御曹司は至極の愛を注ぎ続ける
私、白川柚希は今から二十四年前、〝白川楼〟という老舗旅館を経営する家に生まれた……いや、実際には別の場所に生まれたのだけれど、とりあえず世間にはそういうことになっている。
生まれつき栗色の、猫っ毛の柔らかい髪。くりっとした二重の目や、通った鼻筋、薄く形のいい唇といった整った容姿は、小さな頃から〝可愛い〟〝綺麗〟と周りに褒められたものだけれど、父親にも母親にも似ていない。
じゃあいったい誰に似ているのだと言えば、父親の不倫相手の女性なのだろう。
私は、正真正銘、父親が外で作った子どもで、出生については物心ついた頃から知っていた。
母親はことあるごとに私を睨み『あの女を見ているみたいで虫唾が走る』と吐き捨てていたし、父親はそんな母親から私を庇うわけでもなくバツが悪そうに黙っているだけだったので、幼心にもなんとなくの察しはついたし、それは成長していく中で確信となった。
生まれてからこれまで、ときには無視され、ときには罵倒され、両親から愛された覚えも、可愛がられた覚えも一度たりともなかったから。
そんな、なかなかハードな出生を辿ったものの、母親からも父親からも可愛がられない現実に悲しさや寂しさを覚えたのは小学校に上がる頃までで、そこから先は私も割り切り毎日を過ごした。