契約夫婦なのに、スパダリ御曹司は至極の愛を注ぎ続ける


「ああ、いいのいいの。座ってて」

席に近づきながらそう笑ったお姉さんが、有沢の隣のソファの後ろに立つと、私に向かってもう一度笑顔を作った。

「はじめまして。有沢夏美です。忙しい祖父に代わりご挨拶に……あら?」

上品な雰囲気をまといながら自己紹介していた夏美さんが、途中で真顔になる。
そして私の顔を凝視するので、どこかおかしなところがあっただろうかと一気に不安になる。

さっき、有沢にも覚えた焦りが蘇る。
服装や靴やバッグ、そしてリップは有沢が支給してくれたものだし問題ない。アイメイクは控えめにしているし、髪もしっかりブローしてきている。

何も食べてないから顔になにかがついているなんてミスもないはずだし……と頭の中でひとつひとつ心配事を消していると、私を見ていた夏美さんがニコッと笑顔になる。
それからひとり座ったままの有沢を見て、意味深な笑みを浮かべた。

「ふぅん? へぇ? なるほどねぇ」

からかうトーンで言う夏美さんに、有沢は視線を向けないまま「なんだよ」と顔をしかめる。

「別にぃ。うまいことやったのねぇって感心しただけよ。急に紹介したいなんて言い出すから変だとは思ってたのよね。なるほど、こういうことだったのねぇ。なんだかダシに使われた気はするけど、まぁ可愛い弟のために許してあげる。……あ、座って座って」

夏美さんに勧められるまま着席すると、同じように腰を下ろした夏美さんが「お名前を伺ってもいい?」と聞いてくるので自己紹介しようと口を開く。


< 30 / 171 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop