契約夫婦なのに、スパダリ御曹司は至極の愛を注ぎ続ける


『好きに仕事を選んできた』という言葉に、私が今身に着けているワンピースを見下ろす。
だから夏美さんはアパレルでブランドを立ち上げたのか……と考え、ふと疑問が浮かぶ。

そういえば、有沢は今、なにをしているんだろう。

夏美さんの言い方だと、有沢も実家の仕事を継いだわけじゃなく、自分の選んだ仕事についているみたいだけれど。
少し気になりながらも、夏美さんに相槌を打つ。

「そうなんですね。代表になった夏美さん、絶対カッコよさそうですね」

モデルみたいなスタイルと顔立ちをした夏美さんが代表になんてなったら、きっと社内で憧れの的だろう。私だって確実に憧れる。

「でしょう? でも、そうなると悠介の世話を焼いている時間がなくなっちゃうから、そこが心配だったのよね」
「世話を焼いてもらった覚えはない。あったとしても大昔だろ。いつの話をしてるんだよ」

夏美さんがからかうように言い、有沢はそれを受け鬱陶しそうにする。

先ほどから何度も目の前で行われているやり取りを微笑ましく思うのは、私と兄は一度もこんなふうに会話をできなかったからなのか、それとも、夏美さんを相手にする有沢が普段より少し幼く見えるからなのか。
これだけ美形な姉弟なのに、交わしている会話が気取らず可愛らしいからかもしれない。


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