契約夫婦なのに、スパダリ御曹司は至極の愛を注ぎ続ける
「そういえば柚希ちゃんはうちの系列のレストランでバイトしてくれてたって話だったよね。今まで色々なバイトをしてきてるって悠介から聞いてるけど、どれくらいの種類を経験してきたの?」
「あ、えっと、初めてバイトをしたのは高校一年に上がった夏休みで、まずはコンビニで──」
夏美さんは終始明るく、そして気さくで、話の進め方も振り方もとても自然だったのでいつの間にか私の緊張は解け、素のままの自分で話していた。
今日のこれが、有沢の妻として相応しいかどうかの夏美さんによる私の審査だと思い出したのは、二時間近く嘘偽りなく楽しくおしゃべりした後で……ハッとして血の気が引いていった。
そこまで着飾ろうとは思っていなかったものの、素を出すにも限度がある。
意見だって、思うままを口にしていた。育ち方や心根はそういうところに色濃く出てしまう。
やってしまった……と青くなっているうちに「楽しかったー」と明るい笑顔で感想を述べた夏美さんが席を立つ。
なので、慌てて私も立ち上がった。
「あの、夏美さん。これ、お好きだと聞いたのでよかったら」
差し出したのは、老舗の栗羊羹。
夏美さんの好物だと、有沢から聞いて用意しておいた物だ。
抹茶色の紙袋を受け取った夏美さんはすぐに中身がなにかわかったようで、顔をほころばせた。
「大好物なの。ありがとう。お礼したいから、今度はふたりでお茶しましょうね。あ、連絡先交換してもらってもいい?」
「はい。もちろんです」