契約夫婦なのに、スパダリ御曹司は至極の愛を注ぎ続ける


夏美さんとメッセージアプリで繋がる。
本当に相当栗羊羹がお好きなのか、アイコンが綺麗に切った栗羊羹の断面で思わず笑ってしまった。

バッグを肩にかけた夏美さんが、最後に「柚希ちゃん。悠介のこと、よろしくね」と笑顔で言う。

有沢と私の結婚には事情があり、期間限定でしかない。
そうとは知らずに私を認めてくれてやわらかい笑顔を向けてくれる夏美さんに、罪悪感を抱き胸が締め付けられる。

母親を欺くことにはなんのためらいもなかったけれど、こんなに素敵な夏美さんを騙す覚悟はまだ決められていない。
どんどん大きく膨らんでいく罪の意識が肩に重たくのしかかる中、なんとか笑顔を作ってうなずく。

「はい」

これは、私が実家から逃げるために有沢と結んだ約束なのだ。
どんなに納得いかなくても、優先したい感情が生まれても、それは割り切って責務を全うしなければならない。

たくさん経験してきたバイトで嫌と言うほど学んだ教訓だった。


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