契約夫婦なのに、スパダリ御曹司は至極の愛を注ぎ続ける
漠然と危惧していたことが現実となり、頭がくらくらした。
今、私の目の前には綺麗な夜景が一望できる大きな窓がある。高さは床から天井までで幅は五メートル……いや、それ以上だろうか。
そんな大きな窓の前にはこちら向きにテレビが置いてあり、そこから手前に二メートルほど下がったところには、十人近くは座れそうなソファ。
つまり、ソファでくつろぎながら、夜景をバッグにテレビが見られるというわけだ。
通常ならキャーキャー騒がれる主役級の夜景がまさか背景にされてしまう場所があるなんて初めて知った。
でも、床に敷かれたオフホワイトの絨毯も、カーテンレールからもれる間接照明の柔らかい色も、分厚いマットレスの大きなベッドも、どれもこれでもかというほど素敵で、全部が主役を張れそうだ。
というか……月曜日、有沢と話し合いをしたときも思ったのだけれど。
「私の知ってるホテルじゃない……」
学生の頃からお金を貯めるのに必死で、友達と旅行した経験なんて修学旅行合わせたって片手で足りる。
そのどのホテルもこの部屋よりもだいぶこじんまりしていたし、ベッドや窓のサイズももっとギュッと部屋にはめ込まれていた感じだったけれど、それが窮屈なんて思わなかった。
十分寛げたしテンションも上がったし、むしろあれが普通で……これは異常だ。
しかも、ホテルなのにまるでマンションみたいに個室がいくつかある。
実家も旅館なので、宿泊施設がただ寝床を用意すればいいわけではないとは弁えている。お客様が心から休めるように、そしてまた来たいと思ってもらえるようにと試行錯誤しているのは、どこの旅館もホテルも同じだろう。
おもてなしで勝負する旅館もあれば、広さや豪華さで勝負するホテルもある。千差万別でそれぞれにいいところがある。
でも、これは……私には不相応すぎてとてもじゃないけれど、リラックスなんてできそうもない。
もっと普通の部屋を想像していただけに、選択を間違っただろうかと今更思う。
マンションとホテル、有沢の提案はどちらを選んだところで私にとっての正解はなかったらしい。