契約夫婦なのに、スパダリ御曹司は至極の愛を注ぎ続ける


「おまえの荷物、本当に運び入れなくていいのか? 部屋が狭くなることを心配してるなら隣の部屋に運ばせるから、今からでも……」
「いい! 大丈夫!」

お風呂から出てきた有沢が後ろから聞いてくるので慌てて断る。
ちなみに、私は部屋に入ってすぐにお風呂は済ませている。広がる光景から現実逃避するようにゆっくりと湯船につかり、ホテルだとは思えない広さの洗面所で髪を乾かし、部屋に戻ったらやっぱりそこは豪華なままで思わず声が漏れたというわけだ。

私がここに持ってきた荷物はバッグふたつ分。すでに有沢がクローゼットに運び入れてくれていた。
有沢が言う私の荷物というのは、トランクルームに運び入れた家電やら生活用品だ。

今までの部屋にはもう住んで二年が経とうとしている。
更新時期が迫っている上、ここ一年は母親からの連絡も多いし、なんとなく不気味に感じてそろそろ引っ越そうとしていたところだった。

なので、有沢とここに住んでいる間は、とりあえずトランクルームを借りそこに入れて、結婚生活が終わる二ヵ月後、新しい部屋を見つけ次第そこに運び入れようと考えている。

家電といっても、ひとり暮らし用サイズなので小さいトラック一台で運べる量だ。
その家電たちに、これと同等の部屋をひとつ与えると言い出す有沢に内心引きながらソファの端っこに腰かけると、自然と長い息がもれた。

夏美さんと別れたあと、運び出しやら運び入れやらをしていたため、結構疲労困憊だった。

ここに来る前に有沢とはレストランで食事を済ませてきている。そのため、疲労と満腹のダブルパンチで眠気が襲ってくる。
ひとり分離れた場所に座った有沢が「疲れたみたいだな」と聞いてくるので、素直にうなずいた。


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