契約夫婦なのに、スパダリ御曹司は至極の愛を注ぎ続ける


「うん。引っ越しって重労働だって思い出した。私は荷物少ない方だから、あれでも楽だったんだろうけどね。それより、業者の手配とか立ち合いとか、色々とありがとう」

有沢と同居する話が出たのは急だったし、引っ越し業者だってそんなすぐに手配できない。だから、私は一ヵ月分家賃を多く払うことになっても仕方ないと諦めていた。

有沢と同居する部屋も、急いで決めるよりもゆっくりと吟味して探した方がいいだろうとすら考えていた。
でも、そんな話を夏美さんと会った後に話すと、それを聞いた有沢はすぐにどこかに電話をし、短く済ませると「業者を手配した。一時間後におまえの部屋に着く」と言い出し……。

結局、大家さんへの対応も引っ越し業者への立ち合いも、トランクルームの確保や契約も有沢が率先して行ってくれた。

それは、私を一刻も早くあの部屋から出そうという意気込みすら感じるほどで、ここまで面倒見のいいタイプだったっけな……と疑問に感じながらも、助かったのはたしかだった。

どうしても早く同居を伴う結婚生活を開始させたかったらしい。
きっと、それほどにお見合い話を断るのがストレスだったのだろう。

でも、ここまでではなかったにしても、有沢の多少の強引さはそういえば昔からなので、なんだか今更懐かしさを感じる。
バイト先で顔を合わせていた頃も、帰りが遅くなれば私がどんなに平気だと言っても聞く耳持たずで家まで送られたものだ。

そう考えると、あの頃からジェントルマンだったんだのかもしれない。当時は軽口に気を取られた気付かなかった。

「電話したらすぐに来てくれる引っ越し業者がいるなんてすごいね。顔が広くてびっくりした。すごいね」
「仕事の関係で知り合っただけだ。普段は企業を相手にしている業者だから、個人の荷物ならトラック一台で済むし空いてる車と人数でどうにかなるかと踏んで頼んだらうまくいったってだけの話だ」


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