契約夫婦なのに、スパダリ御曹司は至極の愛を注ぎ続ける
両親にとっての自分がどういう存在かを身を持って知り、諦めたというのもあるけれど、きっと、周りに両親以外の大人がたくさんいたのも大きいのだと思う。
〝白川楼〟は由緒正しい老舗旅館で、当然、従業員もたくさんいる。両親にまったく構われない私を不憫に思った従業員が気を使って話し相手や遊び相手を買ってでてくれたし、常連のお客様の中にも、私を気にかけてくれる方がいた。
なので、〝家族〟や〝家庭〟という言葉とは無縁の生活を送ってきた私だけれど、決して愛情を与えられなかったわけではないし、むしろ、あれだけたくさんの大人の手を借りられたぶん、恵まれていたとすら思っている。
そう。ラッキーだった。
「そこからどうして結婚相談所に行こうなんて思い立つんだよ」
そこまでの話を聞いた有沢がわからなそうにわずかに眉を寄せる。
丸い天板のテーブルを挟んで向かいのソファに座っている有沢は、ひじ掛けに頬杖をつき、長い足を組んでいた。
不満そうに寄せられた眉間のシワに、やや私を責めているように聞こえる声色。それに、偉そうな態度に昔の有沢が重なり、笑いそうになった。
こうして話すのは三年ぶりだ。
さっき顔を合わせたとき、雰囲気が大人びたと感じた。なので、なんだか知らない人を相手にするみたいで最初こそ私も少し緊張していたものの、こうしてぶっきらぼうな態度を見ると昔と変わっておらず、とてもホッとする。