契約夫婦なのに、スパダリ御曹司は至極の愛を注ぎ続ける


だから褒められることでもない、というような言い方をする有沢に、ふっと頬が緩む。
必要以上の褒め言葉を素直に受け取らないのも昔からだ。

〝すごいね〟と言って、〝そうだろ〟という反応が返ってきたことなんてないかもしれない。

電源の入っていないテレビの向こう側に広がる夜景を少し眺めた後、有沢の横顔を窺い、ずっと気になっていた質問を口にする。

「ご両親、いつ亡くなったの?」

バイト先であれだけ頻繁に顔を合わせていたのに、有沢のご両親が亡くなっていたことを再会して初めて知った。
結構、仲が良かったつもりでいただけに少しショックに感じていると、有沢は背もたれに寄り掛かり、長い足をゆっくりと組んでから答える。

「俺が小学校の頃だ。正直、当時は寂しさもあったが、両親のいない生活にも数年で慣れたし、現状に不満もない。両親が生きていた頃は、大事にされていた記憶があるし、今も祖父や姉が気にかけてくれていることを考えれば俺は恵まれているんだろう。親がいても、満たされるとも限らないみたいだからな」

有沢がこちらを見る。
最後のひと言は私を指しているのだとわかり、苦笑いをこぼした。

「それぞれ事情があるから一概には言えないけど、うちが特殊なだけだよ。家族が揃っていればそれだけで幸せっておうちはたくさんあると思う。それに、父親と不倫相手との子どもの私を母親が憎むのは仕方ないとも思うし……ただ、だからって私が悪いわけじゃないし、いいなりになるつもりはないけどね」

背もたれに寄り掛かると、視界が一面天井となる。
暖色のライトが眩しくてそのまま目を閉じた。


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