契約夫婦なのに、スパダリ御曹司は至極の愛を注ぎ続ける
「他人事みたいに言うんだな。普通は、自分自身のことをそこまで客観的には見られない」
落ち着いた声で言う有沢に、ふっと笑みが浮かぶ。
「他人事だよ。家を飛び出したときから、私はもう家族とは縁を切ったつもりでいるから。いつまでも理不尽な扱いに耐えながら生きていくつもりはないから、あの家にはもう戻らない。〝白川楼〟がこの先どうなるのかは少し気がかりだけど……それでも、もう戻らない」
ゆっくりと目を開け、頭を起こす。
ハッキリと言い切ったからか、少し驚いた様子でいる有沢を見て笑顔を作った。
「冠婚葬祭も顔を出さなければ、親戚中に冷たいやつだって思われちゃうかもしれないけど、それももういいやって割り切った。私の人生だし、産みの親だろうが育ての親だろうが、いらないものは捨てる。あのとき、そういう覚悟で家を出たの。だから、一片の悔いなし」
有沢はしばらく黙った後、困ったように笑った。
「武士が死ぬ間際に言いそうな言葉だな」
「そうだね。大往生して死ぬ間際にも〝一片の悔いなし〟って言えたらいいな」
ふふっと笑いながら言う。
有沢も同じように笑ってから、夜景に視線を移し遠くを眺めた。