契約夫婦なのに、スパダリ御曹司は至極の愛を注ぎ続ける
そして、その気配が近づいてきたと感じた次の瞬間「持ち上げるからな」と言われ、言葉通り抱え上げられる。
衝撃に驚いて一瞬目は開けたものの、有沢が私を横抱きしたまま歩き出すので、顔を緩ませながら目を閉じた。
寝落ちしたのを誰かに運んでもらうのなんて初めてだ。
「誰かにこんなふうに甘えたの、すごく久しぶり」
本当に小さい頃、従業員に高い高いをしてもらったことはある。でも、ある程度成長してからは、私だって素直に甘えられなくなった。だって、どんなに優しくしてくれても本当の親ではないのだから。
誰かにこんなふうに抱きかかえられたことも、誰かの体温をこんなに近くで感じたのも本当に久しぶりで、どこまでも柔らかく優しい気持ちに包まれ幸せを噛みしめる。
もっと、と生まれたわがままを止められなくて、夢見心地で有沢の首に手を回しギュッと抱き着く。
首元にすり寄っても、大人になった有沢は文句を言ったりはしなかった。
疲れきったところをベッドまで抱っこしてもらうなんて、とても大事にされているようで胸の奥がむずむずする。
きっと、親に頭を撫でてもらったり、おんぶしてもらったときの子どもはこんな気分なのだろうなと思った。
その日、私はこれまでの人生の中で一番満たされた気持ちで眠りについたのだった。