契約夫婦なのに、スパダリ御曹司は至極の愛を注ぎ続ける
◇「あまりベタベタ触るな」


「これで問題ないな」

有沢がボールペンを置き、今しがた書き終えた書類を確認する。
月曜日の朝、有沢がどこからか取り出したのは婚姻届。しかも、承認欄にはすでに夏美さんと、あともひとり、有沢の姓の男性らしき署名がされているものだった。

「書け」と言われるまま私が書き終えると、今度は自身でボールペンを持った有沢は迷うことなくスラスラと記入を終えた。
婚姻届が出現してからすべての欄が埋まるまで、ものの五分だ。

ホテルの一室。大理石のダイニングテーブルを挟んで向かいに座る有沢は表情ひとつ変えることなく、出来立てほやほやの婚姻届を茶色い封筒に入れる。

二泊したくらいではこの部屋にふんだんに散りばめられた豪華さには慣れないこともあり、未だ現実感がない中その様子をぼんやりと眺める。

でも、承認欄のひとりは有沢の親戚だろうか……と考えた途端、ハッとした。

「待って!」

突然大声を出した私に、有沢はやや驚いた顔でこちらを見た。

「なんだよ、急に」
「だって……ねぇ、こんな簡単でいいの? 有沢の結婚は私と違って一族に関係してくるっていうか、会社にも影響するレベルでしょ? こんなこっそり私と結婚して大丈夫なものなの? しかも二ヵ月後には戸籍にバツがつくんだよ。それって有沢グループの今後に悪く働かない?」

騙していることへの罪悪感はもう覚悟の上だ。
でも、二ヵ月後を考えると、私はいいにしても有沢にはダメージが残るんじゃないだろうか。

今回のこれはお互いの条件をのんだ形だけれど、最終的に有沢の負担ばかりが大きいなら、それは不公平だし納得いかない。
そう思い聞くと、有沢は少し黙った後「〝悠介〟だ」と返す。

答えになっていない。


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