契約夫婦なのに、スパダリ御曹司は至極の愛を注ぎ続ける
「ううん。悠介側が挙式披露宴なしでも問題ないなら、私は大丈夫。むしろよかったよ。離婚が決まってるのに大々的にそんなことして余計なお金使わせるの、気が引けるし」
〝折半で!〟と言う私の意見を全部無視して、二ヵ月間の結婚生活で発生する費用を全額払うと言い張った悠介のことだ。挙式披露宴なんてしたら、それも全額持つと言うに決まっている。
仮の同居生活を送る場所としてこんな部屋を当たり前の顔して用意する有沢グループ御曹司の挙式披露宴なんて、見積もりを見るまでもなくとんでもない額で、きっと桁がひとつ違うのは簡単に想像がついた。
どうせ、うちの問題が解決してから式場に予約を取りに行ったところで、離婚予定日の二ヵ月後よりも先しか空きはないだろう。よって、悠介と私の挙式披露宴はありえない。イコール悠介の出費なし。
そう思い、安心して笑った私に対して、悠介は少し不満そうに眉根を寄せた。
「まぁ、そのへんはまた後でいい。とりあえず、指輪だけは用意するからな。役所に婚姻届を提出したら、その足でジュエリーショップに寄る。希望のブランドはあるか?」
「え、ない……っていうか、そういうのあまり知らないからなんでも。あ、でも、できればリーズナブルな物が……」
「そうか。だったら俺が決める」
昔から強引なところはあったにしても、こんなにも人の言葉を遮るイメージはなかったのだけれど……。
再会した日や、夏美さんと会った日の夜、私の昔話や事情、弱音はしっかり聞いてくれたのに、偽装結婚についてはやけに我を通してくる悠介を不思議に思いながらも、役所に向かうために立ち上がったのだった。