契約夫婦なのに、スパダリ御曹司は至極の愛を注ぎ続ける
もしかしたら、私が気付けないだけで悠介に大幅に有利に働くとんでもない契約を取り交わしてしまっただとか、そういうことだろうか。
偽装結婚についてだけ私の意見をあまり聞き入れてくれない……というか、聞きたくないような態度をとる悠介に疑惑の目を向ける。
婚姻届を無事提出した後、予定通り悠介の運転する車はジュエリーショップに到着した。
そして、今は、貸し切り状態のキラキラとした店内で、悠介はスタッフとああでもないこうでもないと相談している最中だ。
そんな彼の横顔をじっと見ながら、期間限定の偽装結婚の契約内容について考える。
私の希望は、〝籍を入れて義理の兄との結婚を阻止したい〟で、悠介の希望は〝結婚してお見合い話を断る煩わしさから逃れたい〟。ざっくり言えばこんな感じだ。
一ヵ月でもいいと言った私に対して、悠介は年単位を提示した。
生活費全額持ってもらっている状態でそんなに長期間は、さすがにうなずけない。
だったら同居は解消し一年なり二年なり籍だけ入れておけばいいのではないかと提案すると、悠介は渋々といった具合に「二ヵ月で、同居だ」と妥協案を出し、私も了承した形だ。
悠介側の希望である、お見合い話を持ってくる仕事関係への既婚の周知もそれだけあれば問題なさそうだという判断だった。
これが、契約結婚の内容だ。
……うん。とくに問題はない……と思う。
そもそも、立場的に私が悠介に窃取されるものなんてないのだ。
有沢グループの御曹司が私からお金を巻き上げるなんてまずないし、体が目的だとか、そういうお店に売り飛ばされるとかいう可能性もない。
だから、契約結婚について私の意見を遮ることに深い意味はないのだろう。
それに、私が知る限り、悠介はそんな人間じゃない。