契約夫婦なのに、スパダリ御曹司は至極の愛を注ぎ続ける


ひとりで落としどころを見つけてうんうんと納得しているうちに、悠介とスタッフの会話も終わったらしい。

自動ドア前まで出てきたスタッフは、悠介に濃紺のショップ袋を手渡すと「ありがとうございました」と深々と頭を下げた。

しまった。最初にサイズを測った以外、指輪選びにまったく協力しなかった。一応、値段くらいは把握しておいて、断られることになったとしても、二ヵ月後、契約終了を迎えたときに半分返そうと思っていたのに、それも失敗だ。

さすがに今更値段を聞くほど不躾にはなれないため、「あの、指輪、ありがとう」というお礼の言葉で収める。
見上げて微笑むと、悠介は意外そうにわずかに目を見開いた後、私から顔を背けた。

「別に。店に行けば誰にでも手に入る物だし、礼を言われるようなことじゃない」
「いや、でも必要経費だとしても悠介にばかり出費させてるから一応……」

話している途中で、視線を感じてハッとする。
勢いよく振り返りあたりをひと通り見回したけれど、こちらを見ている人物は発見できず、なんとなく気持ちの悪さに襲われる。

たしかに誰かがこちらを見ていたと思うのに……。

駅からほど近い大通りは車も歩行者も多い。
道行く人を注意深く観察してみても、知っている顔も怪しい人物も見つけることはできなかった。


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