契約夫婦なのに、スパダリ御曹司は至極の愛を注ぎ続ける


「とりあえずの間に合わせの指輪だからな」

そう言いながら指輪をはめてくれる悠介に、あまり意味がわからないまま「あ、うん」と返す。
だって、男の人に指輪をはめてもらうのなんてこれが人生初だし、女性なら誰でも憧れるイベントのひとつだ。

気持ちがふわふわしすぎて浮かび上がらないようにと抱えるのに必死で、耳や頭まで正常に働かせられない。

初恋もまだの私がこんなに舞い上がるのだから、きちんと恋をした状態で好きな相手からこんなことをされたらどうなってしまうのかを考え、プロポーズされて涙を見せる女性の気持ちに納得する。

たしかにこんなの、嬉しすぎて泣いてしまう。
自分の薬指が特別になった気がして、しばらくそこから目が離せなかった。



「うわ……え、本当に結婚してる!」

結婚指輪を付け合いっこした後、悠介は私をバイト先のカフェに送り届けてそのまま仕事に行った。

そういえば、悠介の仕事がなんなのかをまだ聞いていないな、と思いながら更衣室に入った途端、同僚で同い年の村田蘭が私の薬指にはまった指輪に目ざとく気付いた。

蘭は私がバイトに入るのと同じタイミングで入社してきた正社員だ。調理師免許を持っている蘭はキッチンを、そして私はホールを担当している。

家出してからバイト仲間や友達はできても、家のことを話す気にはなれず一線引いた付き合いをしているのだけれど、蘭は唯一、私の事情を知る友達だった。

明るく真っすぐな性格は一緒にいてとても励まされるし、私のことをとても気にかけてくれている優しい子だ。


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