契約夫婦なのに、スパダリ御曹司は至極の愛を注ぎ続ける
カフェのバイトは週四で入れているため、週五勤務の蘭とはちょくちょく顔を合わせる。
もちろん悠介との偽装結婚についても報告済みで、そのときも今と同じくらいに驚いていた。
いや、『えっ、待っ、え?!』と言葉になっていなかったぶん、前回の方が驚きとしては大きかったかもしれない。
それでも、事情を説明し終えた頃には『なるほどね。思い切ったなって感じはするけど、柚希が望んだ上でならいいと思う。背に腹は代えられないもん。応援する!』と力強くうなずき背中を押してくれたのでとても励まされた。
「これつけるの二ヵ月だけなんだよね? それにしては高そうなデザインに見えるけど」
私の手を掴んだままの蘭が、指輪を凝視する。
「やっぱり高そうだよね。考え事してた間に悠介が決めてて……ホテルの宿泊代だけでも相当なんだから、もっと気を付けて見ておけばよかった」
出費を増やしてしまったことを反省していると、ようやく私の手を離した蘭は「別にいいんじゃない?」とあっけらかんとした顔で言う。
「柚希がわがままを言ったわけじゃなくて有沢さんが決めたんでしょ? 有沢さんだって二ヵ月限定の妻相手に見栄は張らないだろうし、有沢さんからしたら無理した金額とかじゃ全然ないんだと思うよ」
まぁ……それはそうなんだと、私も思う。
あんな部屋の宿泊代を二ヵ月も払おうとしているところを見る限り、私が金銭的な心配をするのはおこがましい……というか、むしろ失礼にあたるのかもしれない。
それでも、〝私にお金使ってくれて嬉しい〟という心理状態にならないのは、当たり前だと思う。
これが当事者じゃなくて相談された立場であれば、私も蘭と同じように〝気にしなくていい〟と答えただろうけれど、当人となるとまた違うのだ。
悠介が悪い人間じゃないとわかっているからこそ、お金を使わせてしまうのが申し訳ない。