契約夫婦なのに、スパダリ御曹司は至極の愛を注ぎ続ける
バイトのシフトは、大体早番と遅番で組まれている。十一時の開店時から十六時までが早番で、十六時から閉店時間の二十時までが遅番だ。
その他、とくに混み合う時間帯に数時間のシフトがランダムに組まれていて、今日の私の勤務はそのランダム要員だった。
四時間、休みなしで働いてカフェを出たのが十八時半。
そこまで遅い時間ではないし、宿泊しているホテルまでは基本的に大通りを歩いていけるから、防犯上なんの問題もない。
たとえ、背中にべったりと視線を感じていたとしても、これだけひと目があれば犯人だって見る以上のことはできないし……悠介が言っていた通り、私の現状を調べてくれた方が都合がいいってものだ。
それなのに、心をざわざわとした不安が覆い始めていた。
そんな私の心を投影したような雨雲が空を一気に覆い始めたと思うとほぼ同時に降り始めた通り雨に見舞われ、小走りでホテルに到着する。
ずぶ濡れとまではいかなくとも、全身しっとりと濡れた状態でこんな高級ホテルに入ってもいいものだろうか。〝お客様、濡れた状態でのご入室はちょっと〟とか止められないだろうか……と一抹の不安を抱きながらもガラスドアに近づくと、私に気付いたドアマンの男性が笑顔を浮かべ迎え入れてくれた。
「おかえりなさいませ」と会釈してくれる男性は、私がこのホテルに連泊していると知っているのだろう。