契約夫婦なのに、スパダリ御曹司は至極の愛を注ぎ続ける


「誰かに聞かれたら困る話なんだろ?」と当たり前のように高級ホテルの最上階の部屋をとった有沢が、日本で知らない人を探すのが難しいほどの大企業、有沢グループの御曹司だと思い出したのは、ぐんぐん上っていくエレベーターの階数表示板を目にした直後だ。

ちなみに有沢は景色なんて興味がないようで、この部屋に入ってから外には目もくれず私しか見ていない。

じっと私に定まったままの眼差しに〝なんで結婚相談所に行く流れになったんだよ〟と促され、下ろしたままの胸まで伸びた髪を耳にかけながら口を開く。

「私には〝龍一〟っていうひとつ上の兄がいるんだけどね、私が一歳になる頃に養子としてうちにきたの。なんて言うか……私は父親と不倫相手との間にできた子どもだから、母親からしたら私に旅館を継がせたくなくて、私よりも年齢が上の男の子を希望して引き取ったみたい」
「不倫相手?」

頬杖を外した有沢が驚いた顔で聞く。

「うん。母親はすごく気性の激しい人で、婿養子の父親はいつも責められてたらしいからストレスもあったのかな。不倫相手は私を育てられないからって父親が母親に頼み込んで引き取って……でも当の父親はその三年後に亡くなっちゃったんだから、無責任もいいところだよね」


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