契約夫婦なのに、スパダリ御曹司は至極の愛を注ぎ続ける


〝白川楼〟でも、常連客や数泊するお客様が外出から戻った際には、フロントや仲居さんは〝いらっしゃいませ〟ではなく〝おかえりなさいませ〟を使っていた気がする。

とはいえ、〝白川楼〟とこのホテルでは受け入れられるお客様の人数が圧倒的に違う。全員なんてとてもじゃないけれど覚えられるわけがないので、主要な人物は把握している程度だろう。

主要でもなんでもない私の顔を覚えていたのは、言うまでもなく、悠介の連れだからで……悠介って、本当にすごいんだなとこんなところでも実感する。

そそくさとフロントを抜けエレベーターで三十八階まで上がり、3810の部屋番号のドアセンサーにカードキーをかざすと、小さな電子音と共にロックが解除される。

ここで寝起きするようになってから三日目で、エレベーターにもカードキーにもやっと慣れてきたところだ。

十九時を回っているのを確認しながら部屋に入り、リビングの明かりに気付く。今朝はライトを消して一緒に出たはずなので、悠介はもう帰ってきているらしい。

今日の午前中は役所に婚姻届を提出に行ったり、結婚指輪を買ったりするために半休をとらせてしまったので、早い帰宅に胸を撫でおろす。

突然休んだ午前中分の仕事が午後に回り、悠介が大変な思いをしていたらどうしようと少し気がかりだったのでよかった。
とりあえず、しっとりしている髪や体をどうにかしようと思い、洗面所に続くドアを開けようとして、中からする物音にハッとして手を止める。

危ない……普通に開けるところだった。



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