契約夫婦なのに、スパダリ御曹司は至極の愛を注ぎ続ける
やっぱり、空気がおかしい気がするし……それは湿気の問題じゃない気がする。
悠介の瞳も、いつもとは違う熱がこもっているように見え、ただ見つめられているだけなのにそわそわして落ち着かない。
目を合わせていると雰囲気に飲み込まれそうでうろたえる。目が泳いでいるのが自分でもわかるほどだった。
「あ、の……」
「柚希」
「え?」
雰囲気を変えるために、夕飯にしようと誘うために口を開いたのに、本題に入る前に遮られる。
名前を呼ばれたから、その先に続く言葉を待ったのに、悠介は私をじっと見つめ、もう一度「柚希」と繰り返すだけだった。
……そう。名前を呼ばれただけだ。
なのに、悠介が見たことがないような真剣な顔で私を見るから。受け止めきれないほどの熱を含んだ眼差しを向けるから。
まるで、好きだとでも言われているように感じ、胸がトクトクと駆け足になっていた。
悠介がゆっくりと腰を折り私の顔を覗き込むように近づく。鼻先が触れ合いそうな近距離にビクッと肩が跳ね、ついでに心臓も飛び上がった。
だって……こんなに顔が近いの、初めてだ。
逃げ出そうにも腕を掴まれた状態じゃどうにもならないし、それに体が石になったみたいに動かない。
緊張に耐え切れなくなって伏せた目。その視線の先に悠介の唇が入り込んできて息をのむ。
鼓動は、きっと悠介の耳にも聞こえているんじゃないかと思うほどに大きく早く鳴り響いていた。
背中をぶるっとした感覚が走る。呼吸が震える中、形のいい唇がゆっくりと私のそれに近づき、重な──。