契約夫婦なのに、スパダリ御曹司は至極の愛を注ぎ続ける


母親はとてもヒステリックだ。普段は私の存在自体を無視しているくせに、母親の虫の居所が悪いと堰を切ったように開口一番からトップギア状態で怒鳴られたもので、不倫を肯定するつもりは決してないにしても、父親にも多少は同情してしまう。

母親の、相手の反論する気力を根こそぎ奪うような長時間に渡る金切り声は思い出すだけで呼吸が浅くなる。
私は今も誰かの怒鳴り声も叫び声も苦手だ。

「兄が引き取られてきた数年後に父親が亡くなったからっていうのもあるのか、母親の兄への執着はものすごくて、今もそう。兄は大人しい人だから逆らったりもしないし、そういう兄の性格も母親の溺愛を助長しているのかも」

一度窓の外に視線を移してから、再度有沢を見て苦笑いを浮かべた。

「その兄とね、結婚しろってうるさく言われてて。ここ一年はとくに催促がひどいから、だったら先に結婚しちゃおうかなって」

正直、そんな常識外れな命令をしてくる人が身内にいるのが恥ずかしい。なので、冗談みたいにヘラッとした笑顔で言った私に、有沢は「は?」と驚きを顔に広げた。


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