契約夫婦なのに、スパダリ御曹司は至極の愛を注ぎ続ける
「今日は来ない。代わりに俺がきた。柚希に言っていなかっただけで、俺も姉さんも最初からそういうつもりだった」
「え、でも……」
悠介がきても、計画通りことが運ばないと心配していると、彼はそれに気付いたのか「問題ない」と言い、胸ポケットから名刺入れを取り出した。
そして、突然の登場に呆然としている母親に一枚の名刺を差し出す。
「ご挨拶が遅れて申し訳ありません。有沢悠介といいます」
悠介の名刺を受け取った母親は、ハッとした顔をして「有沢……?」と呟く。
心当たりがある様子だった。
「そのご様子だと、私のことはご存じのようですね」
悠介も私と同じ見方をしたらしい。
ゆっくりと顔を上げた母親は、バツが悪そうな表情を浮かべていた。
「知っているもなにも……あの、今日は何をしにここへ?」
有沢グループの名前は、当然母親だって知っている。
だから驚くのは無理もないけれど、母親の態度にはなんとなく引っかかりを感じた。
ただ、有沢グループの御曹司が現れたから驚いているだけではないような……私の勘違いだろうか。
一時、大きく乱れた呼吸がようやく元通りに戻っていてこっそり安心する。
自分の動揺の仕方に、私自身少し驚いていた。