契約夫婦なのに、スパダリ御曹司は至極の愛を注ぎ続ける


「夫としての挨拶ももちろんですが、妻である柚希の弁護をするためにお邪魔させていただきました」
「夫って……まさか、結婚相手って……」

驚愕の表情で私を見た母親に答えたのは、悠介だった。

「はい。柚希さんとは先日入籍させていただきました。事情があり急ぐ必要があったためご挨拶が遅れてしまったことを申し訳なく思っていましたが……先ほどのやりとりを聞かせていただき、挨拶の必要も謝罪の必要もないと思い直しました」
「え……」
「私の大事な妻に手を上げた上、〝消えればいい〟だの〝一生不幸に泣いてればいい〟だの、ひどい言いようでしたね。血の繋がりがない柚希を手元に置く決断をされたのはご自身でしょうに、関係のない恨みつらみをすべて幼い彼女に向け続けて発散していたなんて、あまりに大人げないとは思いませんでしたか? とてもじゃないですが、大人が小さな子ども相手にする所業じゃない」

焦った様子の母親が「それは……っ」と言いかけたとき、母親の手から名刺が落ちる。
私の足元に落ちたそれを拾い、書いてある文字に目を見開いた。

〝有沢法律事務所 弁護士 有沢悠介〟

弁護士って……悠介が?

そう驚くと同時に、でも、昔バイト先に来ていた頃、よく本を広げて勉強していたことを思い出す。
すっかり忘れていたけれど、あの頃から悠介は弁護士を目指していた。

『おまえがもし騙されたら弁護してやってもいい』なんて、偉そうに笑われた記憶がある。
まさか本当に夢を実現していたなんて……と場違いにも感動して見上げていると、悠介が母親を見ながら口を開く。


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