契約夫婦なのに、スパダリ御曹司は至極の愛を注ぎ続ける


しっかりとした公的文書が完成し、ホッとする。
内容とサインを再度確認した悠介は、それぞれを茶封筒に入れると、一枚を母親の前に差し出し、もう一枚は鞄にしまった。

そして「では、私たちはこれで」と立ち上がったあと、母親に視線を向けた。

「柚希は私が守っていきます。おかしなことを考えないようお願いします。先ほど説明した繰り返しとなりますが、今後、柚希に接触なり電話なりしてきた時点で違反行為となりますので。守っていただけない場合はこちらも警察に相談せざるをえなくなります。事を大きくしたくないのでしたら……わかりますよね」

最後に釘を刺すように言った悠介に、それまで黙っていた母親が顔を上げる。
そして、懇願するような表情で口を開く。

「あの、この旅館の件は……っ」
「それでは、失礼します」

母親の言葉を遮り、無理やり話を終わらせた悠介が、私の肩を抱き強引に歩かせる。
母親が何を言おうとしたのか気にはなるとはいえ、一刻も早くここを離れたい思いの方が勝った。

もう念書ももらえたし、ここにいる理由はない。
なので「歩けるか?」と聞く悠介にうなずき、家を出るために足を進める。

三年前はまるで夜逃げのように脱出したけれど、今回のこれは本当にしっかりと顔を合わせお互いに納得の上だ。
スッキリとした心が気持ちよかった。





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