契約夫婦なのに、スパダリ御曹司は至極の愛を注ぎ続ける
◇「期限付きが惜しくなったか?」
『じゃあ、しっかりと念書も書いてもらえたのね。よかった。ごねても悠介がついていればどうにかなるとは思ってたけど、別れ際にあまりに揉めるのも嫌じゃない? だからすんなり運べばいいなって思ってたの』
悠介の運転に揺られながら、携帯の向こうから聞こえる夏美さんの声に苦笑いをもらす。
はたしてあれは〝すんなり〟と言える内容だっただろうか。
でも、夏美さんの言うように、悠介が出てきてからは早かったし、嫌味も罵倒もヒステリーも母親の通常運転だ。だったらスムーズに運んだのだろう。
ちなみに悠介は、私が応接間に入ってすぐに、通路で待機していたらしい。そして、私が引っぱたかれたのがわかったので予定より早く登場したと言っていて……つまり、私と母親の会話はほぼ全部聞かれていたことになるので、そこには少し気まずさを感じた。
『生まれてきたくなかったなんて……消えてなくなりたいなんて、本当は一度だって思いたくなかったのに』
私も結構心の深い部分まで出してしまっていたし、聞いていて気持ちのいいものではなかっただろう。醜い内輪揉めを聞かせて申し訳ない。
車に戻った途端、悠介は私の頬に傷がないことを確認しシップを貼った。今はシップがその効果を十分に発揮し、頬の熱を奪ってくれている。